ゼブラフィッシュにおけるトランスポゾンTol2を用いた新しい発生遺伝学的方法論の開発
New developmental and genetic methods using the Tol2 transposable element in zebrafish

浦崎明宏、川上浩一

国立遺伝学研究所、初期発生研究部門

 Tol2は、メダカゲノムから発見されたトランスポゾンである。自然界で唯一脊椎動物ゲノムに存在し活性があるトランスポゾンTol2の機能解析を行い、Tol2を用いた応用技術を開発することは脊椎動物の遺伝学の発展に重要である。
 Tol2は両端および内部に逆向き反復配列を持ち、転移の触媒酵素トランスポゼースをコードし、転移に際してその両端に8 bpの標的部位の重複を生じることが示されている。我々は有用なトランスポゾンベクターの開発をするために、転移に必要なシス配列の解析を行っている。まず、様々な長さの末端配列を持つmini-Tol2 (Tol2の内部をEGFPレポーター遺伝子に置き換えたもの)を構築し、ゼブラフィッシュ細胞中での切り出し活性を調べた。両末端由来の200 bpのDNAを持つmini-Tol2が、高頻度で切り出されることを見いだした。逆向き反復配列19 bpまでを持つmini-Tol2では切り出しは見られなかった。これらのことは、Tol2の切り出しには末端逆向き配列だけでなくサブターミナル配列が必要であることを示唆している。この領域にさらに欠失を導入し、転移の最小必須領域を解析した結果を報告する。
 我々はトランスポゾンを用いたゲノム改変システムの構築のために、ゲノムに組み込まれたTol2の再転移の解析を行っている。hoxc3a遺伝子へのTol2因子の挿入のホモ2倍体を作製し、ゲノムに存在するTol2因子が切り出されるかを調べた。ホモ2倍体受精卵にトランスポゼースmRNAを微量注入後、DNAを回収し、PCR、シークエンシングにより解析した。その結果、Tol2因子が欠失し挿入前の配列に正確に戻ったようなフットプリントが高頻度で観察された。また、欠失を伴って隣接配列同士が結合したようなフットプリントも見られた。このことは、Tol2の挿入変異体から正確な切り出しにより復帰変異体が得られること、および欠失を伴った切り出しにより欠失変異体が得られる可能性を示している。