ゼブラフィッシュにおけるGal4エンハンサートラップ法によるファンクショナルゲノミクス

浅川和秀1 浦崎明宏1 小谷友也1 永吉さおり1 岸本康之1 日比正彦2 川上浩一1

(1国立遺伝学研究所初期発生 2理研CDB体軸形成)

 ゼブラフィッシュは脊椎動物の器官形成のメカニズムを理解するための優れたモデル生物である。ゼブラフィッシュを用いることにより、ゲノムに存在する全遺伝子を対象としたフォワード遺伝学的アプローチによって遺伝子機能を研究することが可能である。我々はこれまでにトランスポゾンを用いた遺伝子トラップ法を開発し、器官形成に重要な働きをする遺伝子群を網羅的に迅速に解析するための方法論の開発に成功してきた。今回、新たにTol2トランスポゾンシステムを用いたGal4エンハンサートラップ法の開発を行った。
 我々はまず熱ショックプロモーターの下流に酵母転写因子GAL4遺伝子を組み込んだTol2ベクター(Tol2-hsp-gal4)を構築した。次にTol2-hsp-gal4を転移反応によりランダムにゲノムに組み込み、異なる部位にTol2-hsp-gal4挿入をもつトランスジェニックフィッシュを作製した。これらトランスジェニックフィッシュをUAS-GFPあるいはUAS-DsRedをもつレポーターゼブラフィッシュと交配させることにより、常温で器官特異的にレポーター遺伝子を発現させることができるTol2-hsp-gal4トランスジェニックフィッシュ30系統を樹立した。この結果は、hspプロモーターが挿入部位近傍に存在するエンハンサーにより活性化されることでGal4が器官特異的に合成され、UAS下流の遺伝子発現が誘導されたことを示している。これらTol2-hsp-gal4トランスジェニックフィッシュ系統におけるトランスポゾン挿入部位近傍のゲノムDNAをインヴァースPCR法によりクローニングし、それらDNA塩基配列をゲノムデータベースと照合することにより挿入部位をゲノム上にマップした。また近傍に位置する遺伝子の検索を行ったところ、30系統のうち17系統においては、Tol2-hsp-gal4挿入は遺伝子内あるいは遺伝子の近傍に存在することがわかった。
 Gal4エンハンサートラップ法は、無脊椎モデル生物ショウジョウバエにおいて器官形成メカニズムの解明に計り知れない貢献をしてきたが、モデル脊椎動物においては未開発であり、待望されていた。我々は、ゼブラフィッシュにおけるGal4エンハンサートラップ法が脊椎動物の発生段階で、器官特異的に興味の対象である遺伝子を異所的に発現させ、それら遺伝子の機能を研究するための有効な方法であると考える。