尾芽伸長および頭部形態形成に影響を及ぼすゼブラフィッシュ母性効果変異体bobtailのポジショナルクローニング
Positional cloning of a zebrafish maternal-effect mutant, bobtail, affecting tailbud outgrowth and brain development

岸本 康之1 , 越田 澄人2 , 古谷-清木 誠3 , 川上 厚志4 , 小原 雄治1 , 近藤 寿人3,5 , 川上 浩一1

国立遺伝研1、自然機構・岡崎統合バイオ2、ERATO/SORST, JST3、東大院理・生物科学4、阪大・生命機能5
NIG1, Okazaki inst. Integrative Biosci. NINS2, ERATO/SORST, JST3. Univ. of Tokyo Fac. Sci.4, Osaka Univ. Frontier Biosci.5

 我々は、脊椎動物の初期発生過程に重要な役割を持つ母性遺伝子を探索し、その機能を明らかにすることを目的とし、遺伝学的スクリーニングによって得たゼブラフィッシュ新規母性変異体bobtailの解析を行っている。bobtailの劣性母性効果は、尾芽の著しい伸長異常や、頭部や体節部の形態形成異常を起こす。In situハイブリダイゼーションにより、bobtail変異体胚では、尾芽や中脳-後脳境界で発現する遺伝子が一旦正常に発現するが、その後発現状態が維持されず減少する。我々は、これらbobtail母性効果による異常の原因を探るため、bobtailの責任遺伝子のポジショナルクローニングを行った。bobtailのホモ成魚は、体表色素パターンに異常を示す。この表現型とSSLPマーカーを利用した連鎖解析により、bobtailの位置を、17番染色体上の約250kbの領域に絞り込んだ。この領域をカバーするPAC1クローンとBAC1クローンの塩基配列を解析した結果、3つの遺伝子があることがわかった。これら遺伝子の転写産物の塩基配列を野生型とbobtail変異体で比較したところ、MOCS1(molybdenum cofactor synthesis step-1)遺伝子に点突然変異があることを見いだした。この遺伝子のmRNAは、ポリシストロニックな構造を有し、2つのORFを持っている。点変異は5’側のORF中のナンセンス変異であった。この遺伝子の野生型合成mRNAを1細胞期の変異体胚に注入すると、bobtailの母性効果による異常が完全に回復した。また点変異を含むmRNAでは表現型が回復しなかったことから、bobtailの原因遺伝子はMOCS1であると結論した。ヒトの遺伝病の原因遺伝子としても知られているこの遺伝子の産物は、モリブデン補酵素生合成に関わることが知られているが、発生過程における役割は全く知られていない。現在、尾芽や頭部形態形成との関連について解析中である。