トランスポゾンを用いた遺伝学的方法論によるゼブラフィッシュの初期発生研究

小谷友也、浦崎明宏、永吉さおり、浅川和秀、岸本康之、川上浩一(国立遺伝学研究所・初期発生研究部門)

 ゼブラフィッシュは、遺伝学的解析と実験発生学的解析の両方が可能な優れたモデル脊椎動物である。これまでに化学変異原ENUあるいはレトロウィルスを用いた大規模変異スクリーニングが行われ、脊椎動物初期発生に必須な多数の遺伝子が同定されてきた。しかしながら、前者は変異の原因遺伝子の同定のためにポジショナルクローニングを必要とすること、後者はレトロウィルスの操作という特殊技術を必要とすること、などの困難な点がある。
 我々はゼブラフィッシュにおいてメダカTol2因子を用いたトランスポゾン転移システムを開発してきた。このシステムは遺伝子操作に特別な技術を必要とせず、ゲノムへの多数の挿入を容易に作成することができる。我々は、スプライスアクセプターと、プロモーターをもたないGFP遺伝子を組み込んだトランスポゾンベクターを構築し、ゼブラフィッシュゲノムにランダムに挿入させた。その結果、初期発生の過程で時期特異的、組織特異的に GFP を発現するゼブラフィッシュを多数分離することができた。これらのゼブラフィッシュにおいては挿入された遺伝子トラップベクターが実際に転写をトラップしており、トラップされた遺伝子の正常なスプライシングを阻害していた。次にこれら挿入のヘテロ2倍体をかけあわせることにより、ホモ2倍体胚の表現型の解析を行った。さらに、ホモ2倍体の成魚の表現型、ホモ2倍体メスの次世代の胚発生に及ぼす母性効果の解析を行った。これらについて報告する。
 我々は、遺伝子トラップ頻度の上昇、トランスポゾン挿入による遺伝子破壊効率の上昇を目指して遺伝子トラップベクターの改良を行っている。ゼブラフィッシュ由来のスプライスアクセプターをもつベクター、内在性遺伝子産物のコーディングフレームをトラップできるベクターを構築した。これらのベクターを用いたパイロットスクリーニングの結果についても報告する。