羊土社 実験医学 Vol.24 2006


hagoromoDactylin

 '98年12月、hagoromoのマウスホモログ遺伝子をまるごと含む1つのBAC クローンの全塩基配列がデータベースに登録されていることに気づいた。当時としては珍しいことであった。これは何かある、と考え登録者のMIT Lander研のSidow博士にコンタクトをとった。彼らはマウスDactylaplasia変異の原因遺伝子のポジショナルクローニングを行っていた。その原因遺伝子Dactylinhagoromoのマウスホモログであった。Dactylaplasia変異は優性で上肢・下肢の指形成に異常を引き起こす(図2)。偶然か必然かゼブラフィッシュの縞模様は5本で指も5本である。それらのパターン形成を同じ遺伝子が制御していることが明らかになったのである。'99年春ほぼ同じ頃、双方ともNature Genetics誌に論文を投稿した。結局彼らの論文のみ採択された2)。Nature Genetics誌のeditorによると、マウスのlimbはgeneral interestだが魚の縞模様はそうではないらしい。結局私たちの論文は紆余曲折を経てCurrent Biology誌に掲載された。幸運にも担当のeditorが論文を気に入ってくれ私たちの魚の写真が表紙を飾ることとなった(図1)

hagoromoDactylinその後

 九州大学中山博士らはDactylin遺伝子産物が実際にE3ユビキチンリガーゼの構成成分であることを証明した3)。東京工業大学岡田博士、寺井博士らはシクリッド科(カワスズメ科)の魚のhagoromo遺伝子の発現解析を行い、hagoromo遺伝子のalternative splicingが表皮上に多彩な美しい模様をもつシクリッド科の魚の種分化に関係する可能性を示唆した4)。大阪大学鹿野博士、戸田博士らはヒトの上肢・下肢の指形成異常を生じる遺伝病split-hand/split-foot malformation (SHFM3)がヒトDactylin遺伝子座の構造異常によって引き起こされることを示した5)hagoromo/Dactylin遺伝子の近傍にはfgf8遺伝子が存在する。最近、ゼブラフィッシュエンハンサートラップ系統の解析からfgf8遺伝子のエンハンサーがhagoromo遺伝子内部に分布している可能性が示唆された(Becker博士、私信)。hagoromo遺伝子とfgf8遺伝子の機能的相関、発現制御レベルでの相関の解析は今後の課題であろう。hagoromo遺伝子産物のターゲットの同定も未解決の問題である。

ゼブラフィッシュインサーショナルミュータジェネシスその後

 Hopkins研ではその後、私たちが開発に成功した方法によって大規模ゼブラフィッシュ挿入変異スクリーニングが実施され、300以上の劣性胚致死変異が分離され、それらすべての原因遺伝子が同定された6)。Hopkins博士はこの研究の成功によって2004年米国科学アカデミーのメンバーに選出された。私は、研究における独自の方法論を開発することの重要性、ゼブラフィッシュ挿入変異生成法の有用性を認識し、1997年に帰国以来、新しい遺伝学的方法論の開発をめざしてきた。その結果、メダカトランスポゾンTol2を用いたゼブラフィッシュにおける非常に効率のよいトランスポゾン転移システムの構築と、それによるゼブラフィッシュの遺伝子トラップ法の開発に成功した7)。私は、この方法論の重要性が認められ、日本にいながらNIH研究グラントの獲得に成功した。これはMIT留学時からの研究テーマの一貫性、およびその頃から築いてきた米国ゼブラフィッシュ研究者との人間関係の賜物であると信じている。このようにhagoromo遺伝子は私にとってその後の研究の出発点ともいえる遺伝子である。

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