羊土社 実験医学 Vol.28 2010
実験例
約6kbのプロモーターとYFP遺伝子を組込んだTol2ベクターを用いてトランスジェニックマウス作製実験を行った2).受精卵110個にインジェクションし、45匹の初代マウスを得た.このうち30匹(67%)において生殖細胞ゲノムにTol2が組込まれ、次世代(F1)でトランスジェニックマウスを産した.すなわち移植した受精卵数に対するトランスジェネシス頻度は27%であった.これは通常の前核へのマイクロインジェクションの場合に得られるトランスジェネシス頻度が3%前後であることと比較するときわめて高いといえる.F1マウスにおいては、複数の独立なゲノムへのTol2挿入が確認された.さらにF1マウスにおいて、プロモーター活性から期待される組織でのYFP発現が観察された(図4).
約65kBのBACプラスミドにTol2カセットを組込み、トランスジェニックマウスの作製実験を行った1).受精卵92個にインジェクションし、7匹の初代マウスを得た.このうち2匹(29%)において生殖細胞ゲノムにTol2が組込まれ、次世代(F1)でトランスジェニックマウスを産した.F1のゲノムDNAの解析から、BACを組込まれたTol2ベクターは転移反応によってゲノムに組込まれていることが確認された.
おわりに
Tol2転移システムは、ゼブラフィッシュの生殖細胞において高頻度で転移することが示されて以来、モデル脊椎動物ゼブラフィッシュにおいて爆発的に使用されるようになった7).今やトランスジェニックゼブラフィッシュ作製のための必須アイテムとなっている。しかしながら、マウスでは培養細胞での転移活性が示された後も、トランスジェニックマウスの作製には長い間用いられてこなかった.Tol2を用いたトランスジェネシスのメリットは高効率だけではない.①ゲノムに組込まれた遺伝子は端から端まできちんと組込まれる.②組込みの際にゲノムの欠失や組換えを引き起こさない.③コンカテマーの状態で組込まれない.④挿入部位近傍のDNAを容易にクローニングすることができ、それをゲノム上にマップすることができる.などのメリットがある.最近われわれの研究室ではTol2を用いて165kbのBACをもつトランスジェニックフィッシュの作製に成功した(阿部ら、未発表).マウスでも同様のサイズのBACトランスジェネシスが可能であろう.本稿を機会に、Tol2転移システムが従来法にとってかわり、トランスジェニックマウスの作製にさかんに使われるようになることを期待する.
|
|