羊土社 実験医学 Vol.28 2010


2)Tol2トランスポゾンを用いたBACトランスジェネシス−大腸菌内での相同組み替えを利用したBACプラスミドへのiTol2カセットの組込み
われわれは通常BACクローンに対して、galkを利用したrecom-bineering法6)により目的に応じた改変を行っている.このrecom-bineering法についてはここでは割愛する.recombineering法により改変されたBACプラスミドは、通常、宿主大腸菌SW102株に取り込まれている.このBACプラスミドにiTol2カセットを以下のように取込む.
①PCRによりiTol2プラスミド(iTol2-AmpまたはiTol2-Kan)からiTol2を含むDNA断片を増幅する.PCR産物に制限酵素DpnΙを加え、37℃で1時間処理し、テンプレートに用いたプラスミドDNAを除去する.PCR産物を電気泳動し目的のバンドをQIA quick gel extraction kit (キアゲン社)で精製する.最後の溶出をH2Oで行う.
②BACプラスミドをもつSW102株を、5mLLB中(プラスミドがクロラムフェ二コール耐性遺伝子をもつ場合は、chloram-phenicol 12.5µL/mLを添加)32℃で一晩培養する5mLの培養液のうち0,5mLを、25mLのLB(chloramphenicol 12.5µg/mL)に移し32℃で3〜4時間培養する(OD600が約0.6となるまで).残りの4.5mLからは、QΙAprep spin miniprep kit (キアゲン社)を用いてプラスミドDNAを回収し、適当な制限酵素で処理して構造を確認する.
③培養液10mLをチューブに移し、42℃で15分間保温する.直後にアイスボックスに移し、4℃5分間静地する.サンプルを4℃低速(3,500rpm)で5分間遠心し、集菌する.
④沈殿に2mLの氷冷したH2Oを加え、穏やかに再懸濁する.さらに8mLの氷冷したH2Oを加え、遠心、集菌する.このステップを2回行う.
⑤沈殿を4℃に冷した1.5mlチューブに移す.約50µLの沈殿が得られる.沈殿25µLにDpnΙ処理したPCR産物を2〜5µL(10〜30ng)加え、4℃で5〜10分間静地する.
⑥サンプル25µLを0.1cmキュベット(バイオ・ラッド社)に移し、Micropulser(バイオ・ラッド社)を用いてエレクトロポレーションを行う*5.菌体を15mLサンプルチューブに移し、LB1mLを加え32℃で1時間培養する.その後、適当な抗生物質(AmpもしくはKan)を加えたLBプレート上に塗布する.
⑦薬剤耐性コロニー10〜12個を少量(5mL)培養し、BACプラスミドDNAを回収して、適当な制限酵素で処理しパターンを確認する.正しいクローンについては、導入した遺伝子とカセットの周囲をシークエンシングにより解析する.
⑧BACクローンをもつコロニーを、5mL LB中(chloramphen-icol 12.5µg/mL)32℃で一晩培養する.そのうち1mlを200ml LB(chloramphen-icol 12.5µg/mL)に移し、さらに32℃で一晩培養する.培養した菌体から、NucleoBond BAC100 kit (Macherey-Nagel社)を用い、DNAを調整する.フェノール/クロロフォルム抽出、エタノール沈殿を行った後、DNAを最終濃度10ng/µLになるようにトランスジェニックバッファーに溶解する*1
⑨BACプラスミドDNAの濃度が10ng/µL*6、転移酵素mRNAの濃度が10ng/µLになるように混合液を調整し、前述と同様にマイクロインジェクションに用いる*7
⑩BACサイズのTol2ドナープラスミドについては、前核と細胞質の両方に対してマイクロインジェクションを行う*8具体的には、まず前核へ針先をいれ、圧力をかけてわずかに前核が膨らむのを確認した後、針先を細胞質に移し、再度圧力をかけて、前核に注入したときとほぼ等量の溶液を細胞質にも注入する.細胞質でも溶液が注入される様子を視認することができる(動画参照*3).

*5条件Ec1,Time constantが5.45〜5.60msになっていることを確認する.
*6コンストラクトによってインジェクションされたマウスの生存率は異なる場合がある.生存率が悪かった場合には、濃度を薄くする(1〜10ng/µL).
*7これより高い濃度を用いると生存率が極端に落ちる.
*8細胞質にもインジェクションすることにより、mRNAから転移酵素の合成が促進されると考える.

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