秀潤社 細胞工学 Vol.19 No.1 2000
2.リポーター遺伝子を探す
ゼブラフィッシュは、体外受精し胚が透明で観察や操作が容易である。この長所を利用して、生きている胚でリポーター遺伝子の発現を観察するための開発研究が行われた。Linらは、アフリカツメガエルの翻訳延長因子EF1αのプロモーターにβガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子をつないで、βガラクトシダーゼを発現するトランスジェニックゼブラフィッシュを作製した。次に、βガラクトシダーゼの蛍光基質FDGを用いることにより、生きている胚でのlacZ遺伝子の発現を蛍光の発色により観察することに成功した6)。
1992年、紫外線を吸収して緑色光を発するクラゲGFP(green fluorescent protein)の遺伝子がクローニングされた7)。AmsterdamらはアフリカツメガエルEF1αのプロモーターにGFP遺伝子をつないでトランスジェニックゼブラフィッシュを作製した。このトランスジェニックフィッシュにおいて、EF1αのプロモーター活性を非常によく反映した胚全体に一様なGFPの発現パターンが見られた8)。現在、GFP遺伝子は(改良型GFP遺伝子も含めて)生きているゼブラフィッシュ胚におけるリポーター遺伝子として非常によく用いられている。
3.特異的プロモーターにより遺伝子発現を制御する
次の目標は、トランスジェニックゼブラフィッシュにおいて、部位特異的、発生段階特異的にリポーター遺伝子発現を制御することであった。Longらは、赤血球特異的転写因子であるゼブラフィッシュGATA-1遺伝子のプロモーター領域にGFPを結合させ、赤血球特異的にGFPを発現するトランスジェニックフィッシュの作製に成功した(図2)9)。
一方、Higashijimaらは筋肉細胞特異的アクチン遺伝子のプロモーターを用いて、GFPを筋肉細胞特異的に発現するトランスジェニックゼブラフィッシュの作製に成功した10)。また、Higashijimaらは、DNAを受精卵に注入後、GFPの発現を指標にして胚をプレスクリーニングすることにより、founder indexを20%程度にまで高めることができた。founderを探し出す苦労を軽減する方法として有用である。
これらの研究により、適当なプロモーターさえ使用すれば、トランスジェニックゼブラフィッシュにおいて“思い通りに”遺伝子発現を制御できることが示された。今後、異所的発現などによる遺伝子機能の研究が盛んに行われるであろう。最近、ショウジョウバエ研究でよく使われるGal4/UASのシステムがゼブラフィッシュにおいても同様に機能することが示された11)。このシステムは遺伝子の異所的発現に有用である。
様々な部位、発生段階特異的にGFPを発現するトランスジェニックゼブラフィッシュが続々と作られつつある。それらGFPトランスジェニックゼブラフィッシュを用いて、次のような研究が可能である。第一に、ばらばらにしたゼブラフィッシュ細胞から、セルソーター(fluorescent activated cell sorter; FACS)によりGFP発現細胞のみを選別分離し、解析することができる。Longらは、前述の赤血球特異的GFP発現フィッシュから、FACSによるGFP発現細胞の分離、解析に成功している9)。第二に、GFP特異的発現ゼブラフィッシュを変異原処理する、あるいは既存の変異ゼブラフィッシュとかけ合わせることにより、GFP発現に影響を与える変異を分離できる。この変異の解析から、プロモーターの特異的発現を制御する、あるいはGFP発現細胞の発生過程を制御する遺伝子群を明らかにすることができる。
II. シュードタイプレトロウイルスによるインサーショナルミュータジェネシス
インサーショナルミュータジェネシスでは、多数のDNA挿入ゼブラフィッシュの作製を必要とする。DNAをゼブラフィッシュ受精卵に微量注入する方法で、インサーショナルミュータジェネシスを実施することは可能であろうか?この方法で得られた変異の報告もあるが12)、founder index、モザイク度ともに低いため、化学変異原を用いた変異スクリーニングに匹敵するような大規模なスクリーニングを実施することはたいへん難しい。また、ゼブラフィッシュでは、マウスにおいて確立されているようなES細胞が未開発であるので、外来DNAをin vitroで細胞に導入し、薬剤耐性などによりあらかじめスクリーニングしてから個体に戻すことができない。
筆者らは、インサーショナルミュータジェネシスを実施するために、多数のDNA挿入ゼブラフィッシュを作製することができる新しいトランスジェニックテクノロジーの開発を行った。
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