エヌ・ティー・エス ゲノミクス・プロテオミクスの新展開 2004
4. cDNAクローニングを基にした発現解析、機能解析
4.1 大規模whole in situ hybridizationによる遺伝子発現スクリーニング
ゼブラフィッシュでは、クローニングした遺伝子の空間的発現パターンをwhole mount in situ hybridizationで容易に視覚化することができる。この技術を大規模なcDNAシークエンスと組み合わせて、遺伝子の発現パターンを網羅的に解析する研究が行われている。
Thisseらは、8,000以上の遺伝子についてwhole mount in situ hybridizationスクリーンを行い約2,000の特異的パターンを示す遺伝子を同定している。彼らはこれらの結果についてまとまった形での論文発表をしていないが、個々の興味深いクローンについての機能解析を進めている。そのうちの一つantivinは新規TGFβスーパーファミリーに属する遺伝子で、過剰発現させられるとactivinと競合することにより中胚葉誘導を阻害することが示された58)。
工藤らは、2,765クローンの解析を行い、特異的な発現パターンを示す347クローンを報告した59)。このような大規模whole mount in situ hybridizationスクリーンからは、次のような成果が挙げられつつある。
- 発現の特異性から、発生過程において重要な役割を果たす遺伝子を同定する。川原らは、赤血球分化に重要な転写因子biklfを同定した60)。Delaunayらは、発現が卵母細胞から胚まで連続して概日リズムで振動するper3遺伝子を同定した61)。
- 同様の発現パターンを示す遺伝子同士の中には機能的に関連しているものがある62)。Tsangら、Fürthauerらは、fgf8と同様の発現をする遺伝子の解析からFGFシグナルを負に制御するsefを同定した63),64)。
- 発生異常変異の原因遺伝子の候補遺伝子をみつける(casanova変異、前述38))。
このような研究によりcDNA情報が蓄積される。次にそれらcDNAにコードされている遺伝子の機能を調べる必要がある。
4.2 モルフォリーノによる遺伝子機能阻害
Naseviciusらは、ゼブラフィッシュ受精卵にモルフォリーノ修飾されたanti-sense oligonucleotideを微量注入すると、非常に効率良く特異的にmRNAの翻訳を阻害できることを示した65)。この方法は非常に簡便で効果的であったので、これ以降ゼブラフィッシュにおいてcDNAクローンにコードされている遺伝子機能の解析が飛躍的にスピードアップすることとなった。
4.3 時空間特異的遺伝子発現誘導システムによる異所的発現
安藤らは、6-bromo-4-diazomethyl-7-hydroxycoumarin(Bhc-diazo)を用いて化学修飾したmRNAを受精卵に微量注入した。このBhc-caged mRNAは、このままでは翻訳活性を有しない。この胚に長波長のUVを照射するとBhc基がmRNAから遊離し、mRNAが翻訳されるようになる。この方法を用いると、UVを照射した領域、あるいは照射した細胞特異的に研究対象である遺伝子の発現を誘導し、機能解析を行うことができる66)。
5. リバースジェネティクス
ゼブラフィッシュでは、ES細胞が樹立されておらず、マウスでES細胞を用いて行われているような遺伝子ターゲッティングの方法論が開発されていない。これに替わる方法論の開発を目指した研究が行われている。
5.1 target-selected mutagenesis
Wienholdsらは、まずENU処理した99匹のオスから2,679匹のF1オス個体を得た。これらのオスは各々多数の遺伝子座に点変異をヘテロ2倍体としてもっている。これら1匹1匹から精子を採取し、一部を凍結保存し、一部からDNAを抽出した。Wienholdsらは、抽出したDNAからPCRによりrag1遺伝子のエクソン部分を約500bpの5つの断片に分けて増幅させ、各々の断片についてシークエンス解析(彼らはこれをresequencingと呼んだ)を行った。すなわち、約2,600x5個の断片がシークエンスされたことになる。この解析により、rag1遺伝子中に15個の点変異が同定され、そのうち一つはナンセンス変異であった67)。
この方法論を用いると、精子DNAライブラリーを対象に適当なプライマーを用いたPCRによる増幅とresequencingを行えば、任意の遺伝子について点変異を分離することが可能である。
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