❷ฺ Tc1/marinerファミリー
Tc1/marinerファミリーのメンバーは2塩基配列TAを重複するという特徴がある。Tc1/marinerファミリーの因子Tc3, Himar1, Mos1は、転移にトランスポゼース以外の宿主因子を必要としないことが、in vitroの実験で明らかにされている12)〜14)。これらのうち、Tc3は脊椎動物細胞中で転移することが実験的に確かめられている15)。Sleeping Beautyは、ヒト、マウス、ゼブラフィッシュの脊椎動物において転移することが知られている。カエル由来の人工トランスポゾン*1Frog princeは、ゼブラフィッシュ、アフリカツメガエルで転移することが示されている16)。
❸ฺ piggyBacファミリー
昆虫由来のトランスポゾンpiggyBacは、4塩基配列TTAA配列を重複する。piggyBacはヒト、マウス、ゼブラフィッシュ細胞中で転移することが示されている17)。piggyBacの転移機構については、ほとんど明らかになっていない。
2. ゼブラフィッシュにおけるTol2を用いた遺伝学的方法論の開発
ゼブラフィッシュは、①繁殖、大量飼育が容易である、 ②胚が透明で、体外で発生が進むため初期発生過程の観察、操作が容易である、 ③世代時間が比較的短い、といった特徴をもち、脊椎動物の初期発生を遺伝学的に研究するためのモデル生物として優れている。しかしながら、ゼブラフィッシュのフォワード遺伝学の方法論としては「化学変異原を用いて初期発生、器官形成に異常を示す点変異を分離し、変異の原因遺伝子をポジショナルクローニングによって同定する」という非常に労力と時間とコストのかかる方法が実施されてきた。トランスポゾンを用いた遺伝学方法論が開発されれば、研究が飛躍的に進むことは明らかであったが、ゼブラフィッシュにおいてそのような方法は未開発であった。そこで、われわれはモデル脊椎動物ゼブラフィッシュを用いて ①Tol2の転移に必要なシス配列の決定、 ②遺伝子トラップ法およびエンハンサートラップ法の開発、 ③転移誘導システムの開発、 ④Gal4/UASシステムの開発、を行ってきた。
❶ฺ Tol2の転移に必要なシス配列の解析
まず、Tol2の転移に、トランスポゾンの両末端の配列が重要であるか否かについての検討を行った。さまざまな長さの末端配列をもつTol2 (Tol2内部にはGFP遺伝子を組み込んである)を構築した。このトランスポゾンコンストラクトを試験管内で合成した転移酵素mRNAとともにゼブラフィッシュの受精卵に微量注入した。その後、微量注入した胚からDNA を回収して、ゼブラフィッシュ細胞内での切り出し活性をPCRで調べた。その結果、Tol2の転移には、Tol2の5'側の200 bp、3'側の150 bpで十分であることが明らかになった18)。また微量注入した個体から次世代を得て、この最小Tol2がゲノム上に転移できることを示した18)。この結果によりTol2ベクターをコンパクトにすることができ、さまざまな新規コンストラクトの作製が容易になった19)。
❷ฺ 遺伝子トラップ法およびエンハンサートラップ法の開発
次に、われわれはTol2を用いて遺伝子トラップ法を開発した。トランスポゾン内部にスプライスアクセプター*2とプロモーターをもたないGFP遺伝子を組み込んだ遺伝子トラップコンストラクトを構築し(図1A)、ゼブラフィッシュゲノムにランダムに挿入させた。このコンストラクトは、発現している遺伝子に挿入され転写をトラップしたときに、その遺伝子の発現様式にしたがってGFPが発現される(図1B)。われわれはGFPを組織・器官特異的に発現するゼブラフィッシュ系統を蛍光実体顕微鏡下で多数分離した20),21)。これらトランスポゾン挿入は内在性遺伝子の遺伝子機能を破壊することができる。
また、われわれはTol2を用いてエンハンサートラップ法を開発した。トランスポゾン内部にヒートショックプロモーターとGFP遺伝子を組み込んだエンハンサートラップコンストラクトを構築した(図1A)。このコンストラクトがエンハンサーの近くに挿入されると、GFPが発現される(図1B)。この方法ではさらに効率よく組織特異的にGFPを発現する系統を分離することができる(投稿準備中)。Tol2を用いて作製された遺伝子トラップおよびエンハンサートラップ系統のデータベースはWeb上で公開され、脊椎動物研究に広く利用されている。
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